「人と想いを繋ぐ」青森県防災ヘリコプター導入と創業の軌跡 ~Landing STORY Vol.8~

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「人と想いを繋ぐ」青森県防災ヘリコプター導入と創業の軌跡 ~Landing STORY Vol.8~

みなさんこんにちは
ライターのSHIORIです。

航空業界への就職を“旅”と定義するマイターミナル。
業界で活躍している人がどう羽ばたき、どう航空業界の地に着いたのかを掘り下げるインタビュー企画「Landing STORY」

前回の「ジェットスター・ジャパン株式会社」の田上様の記事はいかがでしたでしょうか?
8回目となる今回はアイアシスト合同会社の代表である前田基行様からお話を伺いしました!
防災ヘリの立ち上げの苦労や今のお仕事など、ヘリコプターと人に纏わるお話を伺いました。

■インタビュー
アイアシスト合同会社

前田基行様
大学を卒業後青森県庁に入庁。
初任地の教育行政部門を経てたまたま転任した知事部局で、青森県初となる防災ヘリコプター(以下防災ヘリ)導入の事業に
立ち上げから本格運航までに携わる。
定年後、これまで培ってきた経験を活かし航空業界で働きたいシニアと航空業界をつなぐ人材紹介会社を設立。

急遽舞い降りてきた防災ヘリ立ち上げプロジェクト

急遽舞い降りてきた防災ヘリ立ち上げプロジェクト
Q簡単な経歴を教えてください
都内の大学を卒業後に青森県庁へ入庁しました。
最初は教育関係の部署へ配属となりましたが、ふるさとの役に立ちたいという想いから事業部門への異動を希望しました。
異動の希望が通った翌年は消防保安課に配属され、火災予防などの危険物規制に関する仕事を経験し、その翌年から約4年間、消防保安課で防災ヘリ事業に携わることになります。
その後は様々な部署を経験させてもらい、定年退職後に今の会社を立ち上げました。


Q青森県の防災ヘリの立ち上げはどんな経緯だったのでしょうか
昔話になっちゃいますけど(笑)
当時日本では航空機による消防や救急が一般的に行われてなくて、ドクターヘリも行政ではなく病院が試験的に行っている世界でした。少しずつ大きな政令市がヘリコプターをもって消防活動をしようという動きが出て、緊急搬送や山火事、山岳救助など、多用途に空で機動できる消防が事例を作り始めました。
一方、行政にしてみると大きな財政負担でもあるので、様々な背景から航空機による消防や救急がすぐに普及しないという、
そんな時代でした。
青森県も同じようにヘリコプターとは無縁の県だったんですが、政令市を持たない都道府県でも航空機を所有できる仕組みができ、とある経緯で青森県も導入検討が始まりました。
そのプロジェクトの実働部隊に抜擢された感じですね。

防災ヘリやドクターヘリを日本のスタンダードへ

防災ヘリやドクターヘリを日本のスタンダードへ
Qどんな苦労がありましたか
正直、苦労の一言では言い表せないほどの苦労でした。なにせ知識も経験も何もない状態でのスタートだったので(笑)
それにプロジェクトチームがあったわけではなく、ほとんど私1人に任されていました。
苦労を上げるときりが無いんですが、
大きく①ヘリコプターの用途の決定②機体選定と購入③運航ルールづくり
の3つについては特に苦労がありましたね。

①のヘリコプターの用途の決定については「ドクターヘリをやりたいのかレスキューヘリをやりたいのか、
山火事消火をやりたいのか」目的を整理しました。
ヘリコプターにも様々な特徴があるため、目的によって選ぶべき機体が変わってきます。
そのため、ここではとにかく色んな人と会話して情報をかき集めましたね。
結論としてはありとあらゆる災害に対応する方向性にまとまりました。

②機体選定と購入についてですが、
決まった用途に順応できる機体である必要があった為、人命救助ではホイストというクレーンやストレッチャーを使用するのでドアの開口面積が大きいもの。青森県の山々の標高や天候に耐えうるパワーや機動性があるもの。
など、想定される諸条件を洗い出して機体パフォーマンスの観点で選定しました。
いざ機体を購入しようとした時には、外国のメーカーのヘリだったので為替レートによって価格変動があって苦労しました。
ヘリコプターは基本受注生産なので、車のように完成された1台でいくら。ではなく、
エンジン、機体、部品それぞれいくら。と細かく、予算調整には本当に悩まされましたね。

③運航ルールについては官民協力した運航制度づくりと関係性の構築に苦労しました。
県の職員にはヘリを操縦するパイロットも整備や運航管理をできる人材はいません。
なので運航は民間の事業者に委託し、同乗してレスキューをする消防隊員は、市町村の消防職員を出向させて県職員とするなど特殊な運用体制の制度づくりから取り掛かりました。

Qご苦労の中で特に印象に残っているエピソードはありますか
青森ならではの例え話が響いたエピソードがあります(笑)
先程お話した通りヘリの運航は民間、レスキューは県となっています。
何が難しいかというとそれぞれ立場や役割があります。
例えば遭難者を発見できたけど、飛行条件からして救出活動ができない。こんな状況の時にパイロットは危険を冒すことはできませんし、レスキュー隊員は眼の前の要救助者を見過ごす事はできません。
どちらにとっても非常に勇気のいる判断が迫られます。
ここで言い争いや間違った判断をする事は許されませんので、漁が盛んな青森ならではの漁船で例え話をしました。
「パイロット(機長)は船長であり、レスキュー隊長は漁労長です」と。
つまり、安全についてはパイロットが判断し、救助活動についてはレスキュー隊長が判断してください。という事です。
当時私なんか全然年下だったんですが、皆さん聞き入れてくれた事が嬉しかったのを覚えていますね。

Q様々な課題を乗り越えて無事に運航が始まったんですね
はい。青森県の導入事例や制度づくりをした事で、その後に続き他の都道府県さんも防災ヘリの導入をし、訓練などの様々な調査に来てくれました。
防災ヘリの導入や普及支援に繋がる一助になれたかなと思います。
それに同じ機種を入れた都道府県さんがたくさん出てきた事は、自分が作った制度や機体選定、苦労が間違いでなかったとも思わせてくれました。
今振り返れば数えきれない苦労がありましたが、やりがいが大きく上回っているように感じます。

ヘリコプター業界の課題と解決のカギ

ヘリコプター業界の課題と解決のカギ
Q定年退職後は現在の会社を創業されましたね
はい、漠然と青森や航空に対して自分の経験を活かせることがないかとは考えていましたが、正直言うと起業するという強い意志は全くありませんでした(笑)
創業のきっかけは長野県の防災ヘリの事故です。
長野の防災ヘリは青森と同じ機体や仕組みを使っていて、まさに訓練などの支援をした思い入れのある県のひとつです。
航空機事故をなくしたいという想いとそれに対して私ができる事ってなんだろうと考えさせられました。
当時航空業界が抱えていた課題のひとつに人手不足があることを知り、人手不足の解消が事故を無くす事に繋げられるのではないかと思い、今の会社を立ち上げました。
県庁にしか勤めてこなかったので商売のイロハがないし、コロナの影響もあり定年退職してからも苦労ばかりしています(笑)


Q具体的なお仕事を教えてください
ヘリコプターの運航に関わる人材に特化した有料職業紹介業という事業をやっています。
最近転職エージェントのCMをよく見る方もいらっしゃると思いますが、それの航空領域特化版みたいなイメージです。
人材が欲しい企業と転職したい求職者をつなぐ仕事ですね。
様々な背景からこれまでヘリコプター関係の企業の採用は縁故採用が主流でした。
ある意味業界に合った採用手法のひとつなので否定するつもりはないですが、求職者はできるだけ多くの選択肢があれば嬉しいですし、企業も縁故採用では限界があります。
企業と求職者の幸せの為に、私のような横断的かつ中立的な立場の存在が間にあると採用も転職も上手くいき、人手不足の解消の役に立てるのではないかと思って始めました。
また、人手不足の解消の糸口にシニア人材の活躍があると思っています。
ヘリコプター関係企業が求める人材の多くは、資格や型式、飛行時間など必要とされる要件が多く存在するいわばスペシャリスト人材です。このスペシャリスト人材は採用はもちろん、育成にも非常に時間とお金がかかります。
一方、第一線で活躍してきたシニアのスペシャリストは60歳の定年後も働きたい方が多く存在します。
このギャップを埋めるマッチングは当社が特に力を入れて行っている仕事のひとつですね。


Qやりがいや成功体験があれば教えてください
やりがいはお手伝いをした企業様と求職者の方に喜んでもらえる瞬間です。
企業様からは「良い人材が採用できた」や「人手不足の悩みが解消できた」と言ってもらえる瞬間、
求職者の方からは「希望の働き方をできている」や「自分だけでは叶わなかった転職ができた」と言ってもらえる瞬間などですね。
成功体験のひとつに先日シニアの整備士を採用していただいた企業とその求職者から頂いた言葉が印象に残っています。
少し難しい話になりますがヘ、リコプターは365日運航する為、シフトで勤務することになります。
極端な例を上げると、フルタイムで勤務できる人材で揃える場合、余剰に人材を抱えるか、最小限の人数で公休以外の休暇(有給休暇など)を想定しないか。のいずれかで運航を続ける必要があります。
ところがここにシニアのパートタイム勤務者で穴埋めすると、余剰人材を抱える必要もなく、従業員のお休みが確保できます。
つまり、企業からすると人件費を抑えた上に従業員の休みを確保できるメリットが生まれます。
逆にシニアの求職者のメリットには、年金受給やプライベートの時間を確保しながら仕事を続ける事ができます。
このマッチングを成立させる事ができた時に、企業と求職者の両者から「前田さんの会社がなかったらこの状況は生まれなかった」と大変ご満足いただきました。
また私の存在が直接的でなくても安全運航の支えになれている実感もやりがいを感じる瞬間です。

航空機産業の人材イノベーションに挑戦

航空機産業の人材イノベーションに挑戦
Q仕事を通して今後はどのようなことを成し遂げたいと考えていますか
目先の事で精一杯ですしあまり大きな事は言えませんが、この仕事を細く長くでも続ける事に意味があると思っています。
防災ヘリの立ち上げの時も今の仕事でも、目的を果たす為に立場や役割に関係なく、とにかく人と想いに向き合って繋ぐという事をしてきました。
私ができる事も与えられる影響もほんの少しかもしれませんが、業界内の人と想いをどんどん繋げていくつもりです。
小さな繋がりを作り続けた先に、人や技術、様々なリソースをシェアできる業界があったら嬉しいなと思います。
それが日本全体の航空機産業の発展になると思っているので。
共感してくれる仲間と実績を積み上げていかないとですね(笑)


Qお休みの日はどんなことをされてますか
この年齢なので、比較的自由に過ごしています(笑)会社も家も青森ですし、仕事もほとんどをリモートでできますので。
楽しみは毎朝5キロのジョギングと晩酌ですかね。晩酌の為にジョギングしているような状況かもしれませんが・・・


Q:航空業界への就職を目指している方にメッセージをお願いします
航空業界は社会貢献度が高い産業だと思っています。
職種に関係なくよかったなと思える瞬間は、人から感謝されることと自分の存在に貢献度を感じる瞬間です。
ここに幸せを感じることができるのであれば、ハードルが高く思われがちですが、挑戦するに値する職業だと思います。
諦めずに頑張ってもらいたいです。
また、これから目指す方にお持ちいただきたい意識があります。
社会貢献度が高い仕事だからこそ、安全は最も優先されるべきで、なおかつ安定的に運航するということが非常に重要です。
安全と安定運航に対する意識は是非お持ちになっていただけると嬉しいです。

Q:おわりに
最後までお付き合いいただきありがとうございます!
これまでなかなか明かされることのなかった、現在の防災ヘリコプターの仕組みが作られた経緯や苦労などを聞くことができ、大変興味深いお話でした。
人の想いと向き合って仕事をされている前田さんの今後の活躍が楽しみですね。